「まさかり岩男」の魅力はキッチンの包丁では切ることができない「硬さ」です
秋の実りの王様、カボチャ。煮物や蒸し物、天ぷら、お菓子やスムージーに、使いどころが多彩にある優れた味覚です。しかし、硬くて切りにくいことから家庭で敬遠されがちなのも事実。そんな「硬い」カボチャの概念のさらに上を行くカボチャを今回ここにご紹介します。
その名は、「まさかりカボチャ」。ブランド名は「まさかり岩男」。童話で読んだまさかり担いだ金太郎を彷彿させるような勇ましい名前です。「まさかりでしか切れないほど皮が硬い」ことからこの名が付きました。つまり、キッチンでまな板の上に置いても包丁で切ることができない非常にハードな食材なのです。
では、どうしたら切れるのか、割れるのか、生産者に尋ねました
「正直に言います。包丁では切れません。プロが使うような出刃包丁なら切れる可能性はありますが、ケガをする恐れがありおすすめできません。昔はまさかりを使ったようですが、僕たちは鉈とハンマーで割ります。あともう一つ、カボチャをタオルか何かにくるんでレジ袋に入れます。コンクリートの上に、そのカボチャの入ったレジ袋を空中に放り投げて落として割る方法もあります」
生産者のアドバイスに従うなら、カボチャのカットをキッチンで行うのを諦めなければなりません。屋外で、しかもワイルドな方法で切ったり割ったりするしかないないようです。それが「まさかり岩男」のベストな切り方、割り方と生産者が進めるなら、それに従うしかないでしょう。
くれぐれもケガをしないように行ってください。上手に割れなくても悲観をしないでください。
その後には、「まさかり岩男」の上質の旨さ、優しい甘さがあなたを待っています。
「まさかりカボチャ」を復活させたのは、農家の生産者集団BLUE SEEDS
「まさかりカボチャ」はおよそ半世紀前まで北海道の各地でつくられていました。これを「まさかり岩男」として復活させ、生産・販売している生産者集団がいます。士別町川西エリアのBLUE SEEDS(ブルーシーズ)という若手農業後継者のチームです。
BLUE SEEDSには「青い種」という意味があります。「士別の新しい特産物をつくろう」と農家の4代目、5代目が中心になって、2001年に結成されました。現在メンバーは11名。代表者は2年おきに交代し、現在は山崎和人さんが代表を務めています。
2008年より「まさかり岩男」を栽培しており、2019年は同メンバーの佐々木輝さんの畑で生産。5月の定植から始まり、8月末から9月初頭の収穫、およそ1か月の追熟保存に至るまで、すべてBLUE SEEDSのメンバーで行っています。
「硬さ」を「不便」と思うか、「個性」や「面白い」と感じるか
「まさかりカボチャ」は北海道開拓時代に米国より導入された「ハッバード」種が在来化したもので、昭和30年代まで道内で広く栽培されていました。しかし、高度成長時代に入り、世の中が便利になるにつれて「まさかりを使わないと料理ができない」不便さが人々に受け入れられなくなり、急速に栽培が減少。特徴である「硬さ」が普及と生産の妨げになり、昭和40年代には農家の畑から姿を消しました。
「まさかり岩男」の種は、士別の、生産者の未来の「種」でもあります
その「まさかりカボチャ」を蘇らせたのがBLUE SEEDS。きっかけは、「北海道中央農業試験場が保存する〈まさかりかぼちゃの遺伝資源〉の特性を調査して欲しい」と2005年に当試験場より依頼があったのが始まり。特性というのは、味・形・害虫の抵抗性等のことで、試験交配は3年続きました。そして2008年に交配した多くの中から一番食味が良かった組み合わせ種子を「まさかり岩男」と命名しました。
「まさかりカボチャの美味しさや希少性を知り、せっかくできた種を僕たちは『美味しいですね』だけで終わらせたくありませんでした」
以来、BLUE SEEDSは「自分たちの種」である原種を保存しながら郷土の味覚である「まさかりカボチャ」を栽培し続け、「まさかり岩男」として認知拡大、販売促進をめざした活動を一丸となって行っています。
地元の菓子店ともコラボし、スイーツも開発。こうした商品開発活動が認められ、士別青年会議所より「士別志民栄養賞」を受賞(2012年)しています
天塩川と内陸気候に育まれる、北海道指折りの農業エリア
村上春樹の「羊をめぐる冒険」という小説があります。作者が物語のヒントを得るためにこの地を訪れたと言われている士別市。サフォーク種の羊が有名で、「羊と雲の丘」が観光客に人気です。その丘から広がる雄大な風景は青と緑に彩られ、多くの方が憧れる「絵にかいたような北海道!」を実感できます。
旭川市がその中心にある上川地方北部に位置し、市東部の岩尾内湖から天塩川が町の中央を堂々と流れています。「士別」の地名はアイヌ語の「シペッ」(大いなる川)から付けられています。石狩川に次ぐ北海道で2番目に長い天塩川がつくった土壌と内陸性の気候により、農作物が豊かに育ち、士別市は開拓時代より農業の集散地として発展してきました。
BLUE SEEDSメンバーの個々の田畑でも、水稲、大豆、小麦、カボチャ、甜菜、ブロッコリー、トマト、じゃがいも等と実にバラエティーに富んだ種類の作物が生産されています。
「硬さ」を乗り越えて、「まさかり岩男の美味しさ」を多くの方へ
2019年の「まさかり岩男」は、士別市の川西エリアで栽培しています。年間出荷数500〜600個をめざして、BLUE SEEDSでは9月末から販売を開始しました。
確かに普段使う包丁では、切ること、割ることはできません。しかし、そこで購買を諦めてしまっては、このカボチャの美味しさやワイルドさを知らないまま人生を過ごすことになるでしょう。
皮の厚みは約2mm、実は皮からきれいにとれます
「まさかり岩男」は、風味豊かで、栗のような味わい。すっきり優しい甘さ、ホクホクとした食感を楽しめます。
粉質性が強く、現在の栗系のかぼちゃの品種はこの「マサカリ」の系統を引き継いでいるものが多いそうです。
「蒸す」か「揚げる」のが一番美味しいと言われています。
形はひょうたん型。直径20cmから30cm程で、重さは2~3kg。皮の厚みは約2mm。実は皮からとれますが、「硬い」皮は歯でかじってもビクともしません。
BLUE SEEDSが復活させた幻のまさかりカボチャ「まさかり岩男」。
この秋、あなたもぜひ味わって(まず割ることからトライして)みませんか。